通販の箱が飛び交う世の中、包装紙が再び日の目を見る!
株式会社包む
1985年に創業。ギフトを包装するためのラッピング用品に特化した専門メーカー。箱や包装紙、リボンなどのオリジナル商品を開発している。材料の販売を行う直営店「包むファクトリー」では、ギフトを持ち込めばその場でラッピングしてくれる「オーダーラッピング」のサービスも人気。
贈り贈られ、たくさんの幸せを生み出すギフトは、おもてなしの心遣いが根付いている日本にとって大切な文化です。お歳暮や結婚式の引き出物などのフォーマルギフトから、誕生日や手土産といったカジュアルギフトまで形は様々。経済構造やライフスタイルがめまぐるしく変わっていく現代において、ギフトを贈る背景にもまた、変化が訪れています。
そこで、これからのギフト市場がどのように変わっていくのかを、業界のキーマンの方々に聞いていこうというのがこの連載です。第1回目にご登場いただいたのは株式会社包む。ラッピング業界のパイオニアは、今のギフト市場をどう見ているのでしょうか?そして、ラッピングが担っていく重要な役割とは。常務執行役員の東 賢治さんと商品企画部 部長の井上 巌さんに聞きました。
ラッピングは謝意を演出するコミュニケーションツール
——株式会社包むは約35年前からラッピング用品の企画販売をされていますが、創業のきっかけを教えてください
商品企画部 部長 井上 巌さん(以下、井上):もともと「包む」は、もうすぐ創業60年になる株式会社クラウン・パッケージから始まっています。メーカー企業などから依頼を受けて製品パッケージや食品容器などを製作している会社ですが、対企業の事業なので会社名は一般的にはあまり知られていません。ピザやケーキの箱など身近なものを作っているので、日本で暮らしていれば誰もが一度は見たり触ったりしたことがあると思いますよ。
常務執行役員 東 賢治さん(以下、東):クラウン・パッケージはそれらの材料である薄型で美粧性の高い段ボールメーカーであり、紙に関しては強みがありました。
※1いろんな種類の紙を扱っていると、当然余りも出てくるので、それを使って何かできないか? というところから生まれたのが「包む」なんです。
創業当時はバブル真っ只中。「せっかく贈るなら派手に贈りたい」という需要にマッチして、店頭のラッピングサービスも大盛況だったと聞いています。
※1: 具体的にはピザ、ハンバーガー、お中元用ビールケース、ドーナツ、等。食品業界から通信業界など幅広い分野のパッケージを企画・製造・販売をおこなう。
常務執行役員の東 賢治さん
——日本のラッピングシーンを牽引してきた「包む」から見て、ラッピングの魅力とは何だと思いますか?
東:やはりコミュニケーションのツールとして、より華やかに気持ちを伝えられることじゃないでしょうか。その真意は「謝」という字に表れていると思うんです。謝意の謝。感謝の謝であり、謝罪の謝も含んでいます。それを示すことは人間関係においてとても大切な要素で、頭を下げて誰かにギフトをお渡しする場面を最大限に演出するのがラッピングの役目だと思っています。
井上:昔はそういう考えでラッピング用品を作るライバルが他になかったため、今となっては何の変哲もない無地の赤い箱が飛ぶように売れたそうです。バブルの頃はお金も潤沢にあって贈り物が盛んでしたから、今ではあり得ない話も沢山あったそうですよ。先輩の談ですが、車を1台丸ごとラッピングしたこともあるとか(笑)
昔はどの家にも包装紙とリボンがある時代がありました
——率直に、これまでのギフト市場をどう分析していますか?
東:多面的な要素があると思いますが、まず昔のギフトといえば、大抵が箱に収められているものでしたよね。比較的高価な品物を選んで、サイズの合う箱に入れ、包装紙で包み、リボンやオーナメントで飾る、これが古典的な日本のギフトの形でありギフトラッピングです。
特に50代ぐらいの女性なら、ほとんどの方が自分で包装紙を包んだ経験があるでしょうし、貰った贈り物の包装紙もキレイに畳んで取っておく、ということを文化として体感しているのではないでしょうか。しかし古典的なギフトも包装文化も、残念ながら減っているな、という実感がありますね。
井上:そうですね。今の時代、バブルの頃のような無駄に手間とお金を掛ける古典的なラッピングは、悪い言い方をすると過剰包装とされてしまいますから。
——それでもギフト市場の規模を調べてみると微増傾向にあるようです
井上:私の肌感覚的にもそれは正しいと思います。古典的なギフトが減った一方で、誕生日や手土産といったカジュアルなギフトは増えているんです。今はコト消費の時代といわれる世の中ですから、ギフトをあげる行為そのものを大切にしている人はたくさんいます。
東:結局、誰かに贈り物をしたい、喜んでもらいたいっていう、根本にある精神は変わっていないんですよね。それが昔と比べて、もっと気軽にシンプルに、という風に変化していっているということなのではないでしょうか。
ラッピングも手軽なものが好まれるように
商品企画部 部長 井上 巌さん
——現在はどんなラッピングが人気なのでしょうか?
井上:私たちが扱っているラッピング商品の中では、手軽なものが好まれる傾向にあると思います。古典的なラッピングでは、箱、包装紙、リボンなど3〜4つの部材を組み合わせていました。それが今は、ギフトバッグに入れて口をきゅっと縛るだけとか、紙袋にぽんと入れて渡す、という形が一般的になっています。
東:なのである意味、技術や資材は昔の方がより深いものだった、ということも言えると思います。「包む」では技術を社内で継承していますが、今の20〜30代の方だと、包装紙で箱を包んだことがないという方も恐らくいらっしゃるのではないでしょうか。
——そうなると、いずれ包装紙はなくなってしまうのでしょうか?
東:いえ、それはないと思っています。時代ごとにギフトの形に変化はあっても、人として感謝の気持ちがなくなるわけではありませんから。つまり、在り方の問題なんです。
井上:それに包装紙は昨年のクリスマスにすごく売れた商品なんです。その大きな理由が、ネット通販。今はクリスマスプレゼントをネットで買うことも珍しくありませんが、届いた段ボールをそのまま渡すのでは味気がない。そこで、包装紙の出番というわけです。
東:何の因果か、今改めてギフトが箱で世の中を飛び交う時代がやってきたんです。古典的なギフトとは違う形で、箱を包装紙で包む必要が出てきたんですね。
ラッピングはコト消費。贈る人も贈られる側も心が動く
——これからのギフト市場、どんなラッピングが理想だと思いますか?
井上:先ほども言ったとおり、ギフトの、そしてラッピングの根本は謝意を表し、その上で相手に喜んでもらいたいという気持ちです。その気持ちを最大限に高められるような商品を我々が提供していくことで、世の中にもっとハッピーを増やせたら理想ですよね。ラッピングはコト消費。もっといろんな方々に喜んでもらえるはずなんです。
東:私は数年前にクラウン・パッケージから「包む」へ部署異動になったのですが、その際、まさにそんな体験をしました。ちゃんとラッピングされたギフトをあげたら何が起きるか、体験してみようと思い、マフラー2本を妻にプレゼントしたときのことです。「包むファクトリー」でラッピングをしてもらったのですが、とても華やかに仕上げてくれて。それ単体がまるで作品のようで、手に持っているだけで素敵な気分になるなぁと。
そして、それを家で妻に渡したんですけれども、本格的にラッピングされたものは反応がぜんぜん違うんです。「このリボンほどいていい?」なんて、初めて聞かれました。経験がないほど喜んでもらえて、それを見たら、自分も嬉しくなって。贈られた側も贈った側も幸せになれる、これってまさにギフトのコト消費化ではないかなって思うんですよね。少し手間を掛けてラッピングをするだけで、こんなにも人の心が動くんだ、ということに驚きました。
贈る喜びを体験できる手軽なラッピング商品の開発を
——ギフトの未来のため、どんな目標を掲げますか?
東:今はどちらかと言えば、効率を追求する世の中で、余計なものは買わない(=手間をかけたラッピングをしない)という時代の流れです。しかし、ここからまた反転しはじめるかもしれないな、と思っているんです。なぜなら、事柄が素敵だという価値観の世の中になってきたから。
井上:その流れをもっと引き寄せるためには、通販の箱を包みやすい包装紙とか、クリップで留めるだけのオーナメントなど、今のユーザーのみなさんのニーズに合わせた手軽にラッピングが楽しめる商品を供給していくことが大切と考えています。それによって贈る喜びを少しでも体験してもらえる機会を増やしていくことが未来のギフト業界、ラッピング業界に求められていることなのではないでしょうか。
企画:天野成実(ロースター)
取材・文:石井良
撮影:藤井由依(ロースター)