花の美しさは変わらないが、ギフトのカタチは変わっていく
花キューピットは、北海道から沖縄まで日本全国約4,500店からなる花店の配達ネットワーク。インターネットや電話、あるいは加盟店の店頭などで注文を受け、届け先の近くの加盟店から新鮮なフラワーギフトを配達するシステムです。
昼12時(電話の場合は昼13時)までの注文なら、最短で当日の配達も可能。海外への配達のほか、メッセージを入れることや、お菓子や雑貨とのセットを注文することも可能で、母の日、誕生日、引越し祝いなどの個人利用から、開店・開業祝いなどの法人利用まで、あらゆるニーズに迅速かつ確実に応えてくれます。
今回は、2000年にサービスが始まって以来、堅調に売り上げを伸ばしている「インターネット花キューピット」の担当者にお話をうかがいます。人々の生活環境の変化や、ギフトの多様化が進む中、同社ではどのような未来を睨んでいるのでしょうか?
■取材先プロフィール
花キューピット株式会社:https://www.hana-cupid.co.jp
1953年創立の一般社団法人JFTD(花キューピット)傘下。インターネットサイトによる新規市場の開拓と需要の喚起を図りフラワーギフトの受注増大を図るため2005年に設立。
■人物プロフィール
ウェブストラテジー事業部長:大橋俊彦さん
1976年生まれ。岐阜県出身。マーケティングを学んだあと、アパレル企業へ就職し、ウェブ事業を立ち上げる。やがて独立し、ウェブマーケティングのコンサルタントに。そのときの取引先の一つであった株式会社i879(現・花キューピット株式会社)に2013年入社。現在は同社でウェブ事業の統括を行う。
約4,500店の加盟店ネットワークを生かし、新鮮な花を全国にお届け!
――まずは、インターネット花キューピットのサービス内容を教えてください。
大橋俊彦さん(以下、大橋):インターネット花キューピットのウェブサイトやフリーダイヤルなどでご注文いただいた花を、弊社が保持する全国約4,500店の加盟店ネットワークの中から、お届け先に近い花屋さんが直接配達するというサービスです。花キューピットの一番大きな受注窓口となりますね。
お届け先に近い花屋さんが配達するメリットとしては、まず輸送距離が短いため、新鮮な商品をお届けできるということ。そして、その地域のことをよく知っている花屋さんが花のデザインを担当しますので、地域特有のしきたりを守ることができる。たとえばお悔やみの花は、ある地方だと「必ず一対じゃないとダメ」などのルールがあります。そういう地域特性に合わせた花を確実に届けられるのもメリットです。
――加盟店の店頭でも注文が可能ですよね?
大橋:はい。たとえば東京にお住まいのお客様が、大阪にいる方に花を届けたいときは、近所の加盟店に足を運び、お届け先の住所、用途、花の種類、お届け日などを伝えます。すると、東京の加盟店から、お届け先に近い大阪の加盟店に連絡が行きます。そして、大阪の加盟店が指定の日時に作りたての花を届けるというシステムです。
――インターネット注文と店頭注文、現在はどちらが多いですか?
大橋:普段はだいたい半々ですが、母の日、父の日、敬老の日、バレンタインデー、クリスマスなどの物日(祝い事や祭りなどが行われる日)になると駆け込み需要が増えるため、インターネットが多くなりますね。ちなみにインターネット花キューピットの業績は堅調で、前年割れを起こしたことがありません。
――同業他社に比べ、御社が優れている点は何でしょう?
大橋:まず、ネットワークのカバー率がナンバーワンです。北は北海道の一番先、南は宮古島や石垣島までカバーしていますし、海外への配達も行なっています。
また、基本的には宅配便を使わず、花屋さんが直接届けますので、鮮度管理を間違いなくできるのも強みです。宅配便の段ボールに入れてしまうと、暑い日や寒い日に無理が生じますが、プロの花屋さんが配達する弊社であれば商品が傷むことはありません。
オートロックのマンションが増え、花を飾る家が減った?
――ところで、ギフト市場全体の中での「花」のシェアは拡大傾向にあるのでしょうか?
大橋:ギリギリ横ばいを維持している状態ですね。たとえば、かつては母の日に贈るモノといえばカーネーションでしたが、ここ10数年の間にギフトの多様化が進み、カーネーション以外のモノを贈る人も増えました。楽手市場やYahoo!ショッピングにわれわれも出店しており、EC(インターネットを使った商取引)の市場規模が拡大しているため売り上げは好調なのですが、ギフト市場全体の中での花のシェアは減っている。
また、日常的に花に親しむ文化もトーンダウンの傾向にあります。弊社の社長がよく言うのは、「来客を家に入れなくなったから、家に花を飾る習慣が薄れつつあるのではないか」ということ。昔は「誰かが家に来るから玄関や床の間に花を飾ろう」という人が多かったのですが、今はオートロックのマンションが増え、玄関口で用事が済む時代ですから、花を家に飾らない人が増えたという仮説ですね。
でも、だからこそわれわれは、「花があることで生活が豊かになる」ということを世の中にしっかり伝えていきたいと考えています。
――他のギフトにはない、フラワーギフトならではの魅力とは何でしょう?
大橋:感情を一気に高められるギフトとしてのインパクトは間違いなく大きいと思います。ですから、われわれはポリシーとして「生花」にこだわり続けています。生花だからこそ、香りや、朝晩の表情の違いを伝えられるのです。また、フラワーギフトで生花というのは「残らないほうがいいギフト」という意味での利便性もありますね。
フラワーギフトは、「モノとコト」の両面を兼ね備えたギフト
※オレンジバラとガーベラのナチュラルアレンジメント 3,300円(税込・手数料別途)
――女性は花をもらうと、泣くほど喜びますよね。私は男性なのでイマイチ共感できないのですが、あれはなぜなのでしょう?
大橋:弊社の女性社員いわく、「他のモノをもらったときとは違う感情が芽生える。花のある空間が華やかになって特別な気持ちになる」とのことです。ギフトは「モノからコト」へシフトしつつあると言われますが、花はそのどちらでもあるのかな、と思います。花という物体はあるけれど、その場の空間とか気分を贈っている部分もあるのではないでしょうか。
男性が思っている以上の反応があるので、ぜひ女性に贈ってみてください(笑)。
――わかりました(笑)。花を美しいと思う人間の感性って、未来永劫、不変でしょうかね?
大橋:不変だと思います。しかし、「日常的に花に親しむ」という部分においては、われわれがもっとプロモーションをしていく必要があると思っています。
――現状、どのようなプロモーション活動を行なっていますか?
大橋:最近ですと、「花キューピットオープン」というテニス大会のスポンサーとなりました。花を使った装飾や演出で大会を盛り上げ、花に触れてもらうイベントなども行なっています。
「ギフトに限らず、日常的に花を楽しんでほしい。暮らしの中に花があるだけで、これだけ潤いが出て気持ちも変わるんだよ」ということを伝えていくのが、われわれの根本のミッションです。
その一方で、母の日のキャンペーンなども積極的に行なっています。今年の母の日には、人気若手俳優の新田真剣佑さんが花を届けるキャンペーンを行いました。10代、20代の母の日の認知度が低いので、それを高めるためのキャンペーンですね。
「音声だけで操作する時代」に向けて
――インターネット花キューピットは今後、どうなっていくのでしょう?将来の見通しをお聞かせください。
大橋:われわれのウェブサイトへのアクセスを見ますと、ここ数年、パソコンからスマートフォンへの移行が加速しており、数年前は8:2だったのが、今は2:8に逆転しています。また、近年の消費動向として、直前の注文が増えています。直前に頼んでも、すぐにモノが届く時代になりましたからね。
こうした流れは今後も加速するでしょうから、近い将来、スマホすら使わない時代になっていくのかもしれない。若い世代の方はパソコンを開くのがすでに億劫なわけで、やがてスマホを開くのも面倒になると、あとは喋るぐらいしか道が残されていない。となると、音声だけで操作する時代の到来ですよね。
その足がかりの一歩として、われわれもGoogleアシスタントに花キューピットを入れるなどの試みをすでに始めています。VUI(Voice User Interface=声によってあらゆる情報のやり取りを行う機能)を使って、花キューピットにいかに触れてもらうか。未来になっても日常的に花に慣れ親しんでもらうために、そういうチャレンジを今後もいろいろと続けていくつもりです。
――今でも十分便利ですけど、もっと便利な時代になりそうですね。
大橋:若者に限らず、IoT(Internet of Things=身の周りのあらゆるモノがインターネットにつながる仕組み)によって、人々のライフスタイルはこれからどんどん変わるでしょうし、その過程の中でわれわれがフォーカスすべきことも変わっていく。来年になったら5Gが本格的に普及し始めると見られています。すべてのことがリアルタイムで動く世の中になると、フラワーギフトのカタチも大きく変わっていく可能性があると思います。
――たとえば、どのように?
大橋:ドローンで花を運べるかもしれませんね(笑)。とはいえ、花キューピットは、花屋さんが持って行くからこその価値があるのも事実。
一つの花を届けるにしても、花屋さんがお届け先の玄関前でもう一度チェックし、万が一傷んでいるようなことがあれば、差し替えて、ベストな状態でお届けしている。時代は変われど、そこの価値だけは、きっと変わらないのではないでしょうか。
企画:天野成実(ロースター)
取材・文:岡林敬太
撮影:栗原大輔(ロースター)