しっくりと手に馴染む和紙を贈る。江戸からかみのご祝儀袋

日本古来より伝わる技術を継承する職人達。素材にこだわり、ひとつひとつ丁寧に、職人の技術によって生み出される工芸はまさに国が誇る逸品です。今回は、ふすま紙や壁紙に使用される「江戸からかみ」を作る唐紙師(からかみし)にインタビュー。中国・唐より渡り、平安時代から伝わる「江戸からかみ」の至極の逸品ギフトをご紹介いたします。


唐紙は、江戸で愛された美しい“背景”

※左から、『檀紙に松+金結び水引』1,320円(税込)/『姫子松に松水引』1,320円(税込)/『海松(みる)に梅水引』1,320円(税込)

お祝いごと、感謝を伝えたいときに金銭を包んで贈る「ご祝儀袋」。大切な人へ贈るなら、より気持ちの伝わるものを選びたいですよね。「江戸からかみ」で作られたご祝儀袋は繊細な色使いと、上品なタッチが特徴。もらった人が手元に残しておきたくなるような粋なギフトになりそうです。

ふすま紙や壁紙などに使用され、昔から日本の生活を支えてきた唐紙。「江戸からかみ」は、中国・北宋の時代に日本へと伝わり、江戸初期に京から職人が移り住み広まったといわれています。

東京都指定伝統工芸品、経済産業大臣指定伝統的工芸品に認定された、国を代表する工芸品です。今回はそんな「江戸からかみ」を守り続ける職人にインタビューしました。

※唐紙師の小泉幸雄さん。2017年に文化財選定保存技術保持者に認定された

取材先プロフィール

株式会社 東京松屋
http://www.tokyomatsuya.co.jp

1690年創業のふすま紙・壁紙の内装材料和紙メーカー、江戸からかみの版元和紙問屋(総発売元)。オリジナルのふすま紙、ふすま引手、経師用糊など総アイテム数約4000種類を在庫し、全国のふすま・内装材料の専門二次卸販売会社へ卸売している。

2019年7月には、世界各国の外国人の審査によって、「COOL JAPAN」を発掘・認定する賞「COOL JAPAN AWARD 2019」を受賞した。

人物プロフィール

小泉幸雄さん

1947年生まれ。唐紙師の工房(唐源/小泉襖紙加工所)の三代目、1850年頃、「江戸の名工」といわれた唐紙師、初代小泉七五郎から数えて五代目。国・東京都指定の伝統工芸士に認定。2017年文化財選定保存技術保持者に認定。2019年6月に旭日双光章を受章。

まさに匠の技。なめらかな一手には50年の歴史が

――今回、「江戸からかみ」で作られたご祝儀袋をご紹介いただきました。まず、唐紙とは何か教えていただけますか?

唐紙は、中国(唐)から伝来した模様を装飾した紙で、仏教と一緒にやって来たと言われています。平安時代、その紙をお手本に国産化し、和歌をしたためるための「詠草料紙(えいそうりょうし)」として使われていました。国宝本願寺三十六人歌集が代表的です。やがてふすまや壁などに貼られ部屋を飾るようになります。

日本の都市の城下町にはそれぞれ多くの唐紙師がいたようです。古くから生活に息づく文化のなかに唐紙がありました。

ふすま紙や壁紙用ですから、派手すぎるものや圧迫感を感じさせる色味は使うことはありません。光の加減で、雲母(きら)の文様が浮かび上がる程度の、淡い質感が特徴。江戸の文様は、草花など庶民的でおおらかな大きい図柄をしています。

――昔から日本の暮らしに寄り添ってきた工芸品なんですね。製作工程を教えていただくことはできますか?

はい、まずは絵の具づくり、雲母などの顔料に布海苔(ふのり)とこんにゃく糊を加えます。灰色や水色などの、原色ではない微妙な色合いは作る時は苦労するんですよね。

絵の具は、曲輪の木枠に布を張った篩(ふるい)という道具に塗り、版木(はんぎ)の凸面に当ててまんべんなく付けます。

――版木とはなんですか?

朴(ほう)という木でできている、木の板に模様を彫り込んだもののことを言います。唐紙の基本は木版手摺り。版木に絵の具を乗せ、紙を重ねて摺る作業を繰り返して作ります。そうすることで、同じ文様の紙を何十枚も製作できるんです。

※天保時代に彫られた小判サイズの版木「小若松」

――そのあと、絵の具を乗せた版木に紙を重ねていくんですね。手で上からおさえるんですか?

そうです。版木の上から和紙を重ねて、両掌でなでて文様を紙に写しとります。
絶妙な力加減で、摺り具合が変わってくるので。どの文様も均等に付くように、力加減を調整しながら両掌をやさしく水平に動かして摺ります。

一度摺ったら紙を持ち上げ、再び版木に絵の具を乗せて紙をかぶせて二度摺りします。このあと、紙を乾かして完成です。

味わい深い風合いを守る、伝統を未来につなぐ使命

――小泉さんは唐紙師として数々の賞を受賞されていますが、現在職人をやられて何年目になりますか?

20歳の時からなので、今年で仕事を始めてから52年目になります。長崎の出島のオランダ商館復元工事の時には、壁や天井に貼る唐紙を小判サイズ(巾450×丈300㎜)で約1万枚摺り上げました。個人邸のふすまから歴史的建造物の復元など、数多くの唐紙を納めてきましたが、一人だったらできませんでした。

ふすま紙の大判サイズ(巾910×1820㎜)の江戸からかみは一人では摺れないんです。今は、息子二人と、総勢三人で工房をやっていますが、かなり助かっているんですよ。

時代は移り変わり、畳のある部屋も減っていき、この界隈でも職人が大分減りました。ですが、最近だと工房に外国人の方も見学にも来るし、ご祝儀袋やうちわ、ハガキなど江戸からかみを使った身近なステ―ショナリ―商品なども製作しています。

皆さんに知って、使い続けていただいてこそ、伝統は生き続ける。これからも後世に手仕事を伝え、守り続けていきたいですね。

江戸からかみは、ふすまや壁に貼られる、いわば背景の役割。そこにいるヒトやモノをより良く引き立たせ見せる効果があって、ほのかな光で輝く手摺りの文様は、柔らかく温かく心地良いものです。和紙は身体や環境にも優しいですよ。より多くの皆さんに唐紙の良さを知っていただけたら嬉しいです。

企画・取材:ロースター
文:天野成実(ロースター)
撮影:栗原大輔

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