進化系飴細工「浅草 飴細工 アメシン」とは
時は遡ること江戸中期。“飴の鳥”と呼ばれる、鳥の形をした飴が今も残る日本の飴細工の始まりであるそうです。職人が熱々の飴を素手で持ちハサミ一本で型取るその製法は、200年以上も前から変わっておらず、今では海外から注目を集める伝統工芸のひとつです。
今回はそんな飴細工に“新たな風を吹かせた風雲児”と呼ばれる職人手塚新理さんが立ち上げた「浅草 飴細工 アメシン」に、飴細工の魅力を伺いに浅草へと足を運びました。
■取材先プロフィール
「浅草 飴細工 アメシン」
日本の伝統技術である飴細工の保持、発展に務める飴細工師集団。2013年、東京浅草に飴細工の工房店舗を設立。飴細工の製造・販売や、体験教室の開催、出張・実演などを行う。現在は東京・浅草にある「花川戸店」と「東京スカイツリータウン・ソラマチ店」の2店舗を展開する。
■人物プロフィール
手塚 新理(てづか しんり)さん
1989年 千葉県生まれ。手塚工藝株式会社 代表。日本随一の技術力を誇り、世界で活躍する飴細工師。透明な飴細工を生み出したことで、それまで白い不透明な飴が主流だった飴細工業界に革新をもたらした。素晴らしい技術力から多くのメディアから取り上げられ、海外からも高い評価を得ている。
艶やかな和柄を仰ぐ飴細工「うちわ飴」
※「うちわ飴」各630円(税込)(提供写真)
――可愛らしい和柄が印象的な「うちわ飴」。この商品はどんなお客様が購入されていますか?
手塚新理さん(以下、手塚):このうちわ飴は、ソラマチ店をオープンするタイミングで「気軽に飴細工の技術に触れていただけるもの」として作りました。基本的には飾っても、食べてもらっても良いですし、贈り物でもご自分用でも、お客様の好きなようにしていただけたら嬉しいです。特に「贈り物用」とは掲げていません。
しかしながら通常、立体の飴細工は壊れやすいため郵送は行なっていませんが、うちわ飴は立体の飴よりも強度があるため郵送ができます。さらに立体のものと比べて手間をかけていないので価格も抑えられる。気軽に店舗まで来られない遠方にお住いの方への贈り物として使っていただけますし、海外の方からは下町観光のお土産としても人気があります。
――お土産でいただいたら嬉しいですね。作り方をお聞きしてもよろしいですか?
手塚:透明で綺麗なうちわ飴を作るためには機械ではなく基本は手作業。円盤の型に飴を手ではめ込み、その状態で固めます。柄は版で擦り付けたもの。詳しくは企業秘密ですが、飴を透明にする技術と、透明なまま塗装できるという技術を駆使して作っているので、アメシンオリジナルの技術と手軽さをあわせた商品です。
作り手の魂を宿し、命を吹き込む職人技
――立体の飴細工の製作工程を教えていただけますか?
手塚:はい。まず、90度ほどある熱々の飴をゴルフボールほどの大きさに丸めます。飴は空気にさらされるとすぐに固まってしまうため、熱々の柔らかい状態から形状し始めます。
手塚:続いてハサミでカットして型どっていきます。3~4分ほどで飴が固まってしまうため、この作業は素早くやらないといけません。
――そんなにすぐ固まってしまうんですね。間違えて失敗してしまうこともありますか?
手塚:固まってしまってからは修正が効かないので全て一発勝負ですが、かと言って常に100%の位置を切れているわけではありません。小さな失敗やちょっとしたズレは常ですが、次の一手でそのミスをリカバリーするようにしているんです。
――なるほど。それにしても、すごいスピードですね。もうすでに出来上がったように見えます。
手塚:そうですね、カットの作業はそろそろ終わりです。このようにカットの最中は飴の表面にシワが寄って少し濁った色をしていますが、この後の艶出し作業をすることで透明になります。
手塚:芯まで十分に冷やしたあとは艶出しをして乾かします。最後に、色付けを行い、完成です。色付けは塗り師が作業を請け負います。
――まさに職人技ですね。透明な飴細工を開発されたのは手塚さんと伺いましたが、着想のきっかけは何だったのでしょう?
手塚:はい、透明な飴を売り出したのはアメシンが発祥です。本来飴細工は乳白色なイメージですよね? こっちのほうが単純に綺麗だと思ったのがきっかけです。それから“透明な飴細工”として弊社が話題となり、リピーターも増え、海外からの観光客も足を運んでくれるようになりました。ただ、ここまで綺麗な透明を出すとなると、かなり手間がかかりますので、これをやっているのはうちくらいだと思いますよ。
――飴細工は動物やお花など生き物が多い印象がありますが、そこに理由はあるんでしょうか?
手塚:本来飴自体が自然な形になろうとする性質があるので、丸く柔らかい形を得意としているからという理由はあると思います。あとは一個の飴にいろいろな造形を付すのは日本人のアニミズム的感覚※1から来ているかと。
どんなものでも魂が宿っていて、むしろ儚いものだからこそ命を感じる、だからこそ命を吹き込む。それで生き物のモチーフに自然と日本人の感覚として行き着いたんじゃないかと思いますね。
※1: 全てものに固有の霊が宿るという考え方
飴細工はストリートカルチャー 多くの方にとって身近な存在でありたい
――体験教室を開催されたり、職人さんによる飴細工作りの模様を間近で見学することのできる工房一体型の店舗を作られたりと、飴細工をより身近に感じられる工夫が垣間見えます。そのような仕組みを作った背景にはどのような思いがございますか?
手塚:そもそも飴細工は、イベントの際に路上でお客様に見ていただいて楽しんでもらうもの。古くから飴細工はいわばストリートカルチャーだったんですよね。
確かに日本古来より伝わる製法を継承してきた伝統的なものですが、「伝統工芸品」としてではなく、身近なものと捉えてもらいたい。多くの人に飴細工を知ってもらって、ファンになってもらって、若い職人をどんどん育成することで市場を盛り上げていきたいんです。なので、少しでも興味を持った方が体験できる場所、手の届きやすい存在でありたいと思っています。
――飴細工がもっと多くの方に広まってくれたら嬉しいですよね。
手塚:そうですね、いろんな人に知ってもらうことに越したことはない。最近だと法人様からのご依頼が増えました。イベントから、営業活動まで、様々な用途にご注文いただいています。
個人のお客様ですと、結婚式で飾りたいとの依頼をいただいたこともあります。飴細工には“対象層が幅広い”という強みがあります。年齢ひとつとってもお子さんからお年寄りまで楽しんでいただけると思います。もっと身近な存在として飴細工を知っていっていただけたら嬉しいです。
企画:天野成実(ロースター)
取材・文:天野成実(ロースター)
撮影:藤井由依(ロースター)、栗原大輔(ロースター)